*

■神様の歌■序章■

■序章■
BACK TOP NEXT 

「王女様、王女様」
「なあに」
 城の召し使いに呼ばれて、素直に王女は部屋から顔を出す。
 召し使いはほっとしたように微笑んで、手を差し出した。
「陛下がお呼びですわ」
 王女は小首をかしげた。父に呼ばれる覚えなどなかった彼女は、本当に不思議に思いながら、召し使いへと問い掛ける。
「大事なことかしら」
「もちろんですとも」
 召し使いはその用事を知っているようで、本当に嬉しそうな顔をしていた。
「いってらっしゃいませ。きっと、王女様にとっても善きことですから」
 そう言われ送り出された王女は、草色の髪を揺らし、王座の間へと走る。この際、周囲から飛んでくる注意は無視した。自然と胸の奥は踊り始める。
「お父様」
 大きな声をあげながら、王女は王座の前へと飛び込んだ。が、すぐに息を呑んで足を止める。
 父の側に三人の人影がいた。
 二人は、王女と変わらない年齢の少年達で、もう一人は女性、漆黒のローブを身に纏った、そうまるで……。
「お前の友達にしなさい」
 父の声に、王女は女性の観察を止める。何かとてつもない印象を彼女に持った気がしたが、それも父から受けた言葉によって吹き飛んだ。
「友達?」
 目を丸くして問うと、父は楽しげにうなずいた。
 慌てて、王女は二人の少年を見つめる。
 一人は、夜のような漆黒の髪に黒い瞳。王女の視線を受けて、名乗った。
「ティム」
 次に王女は、その隣の少年へと視線を移す。金髪の少年で、瞳は金色だった。王女は、「綺麗」と呟いた。
「僕はルース」
 名前を聞き、王女は父のほうを見る。
「この二人は、俺の知り合いの息子でな、色々な事情があって、この国で引き取ることになった。ティムはお前と同い年。ルースはひとつ上だよ。二人は兄弟なんだ。仲良くな」
 王女は『兄弟』と復唱する。よろしくね、と笑って手を差し出した。
 ルースは無表情で王女の手を取り握手をし、ティムは照れくさそうに笑って握手をした。
 王女は再び、『兄弟』と呟き、そして思った。
 この二人は、あまり似てないのね。と。

BACK TOP NEXT